「放射能おばけ」論について - Togetterまとめ 読んで何を揉めてるのか分からなかったので、とりあえずメモしながら読んだ。でもそんなに頑張って読む代物じゃなかった…
気になる人は末尾の総括だけどうぞ。
以下メモ:
ある分野のあらゆるトピックについて
「科学者・専門家の中での一般的見解はこれだ」と指し示せるようなシステム
は無理です。「知見が十分に蓄積されていない」「見解が分かれている」というような状態も含めて発信できるシステムは必要で、学会の広報機能と、サイエンスコミュニケーター的なるものが担えばいいと思うが。
専門家集団自体が自律性を持ったシステムを構築すること,及び,社会全体で専門家のバイアスをできるだけ排除するシステムを検討し,専門家集団と共同して構築することです。
前者はなされているし、後者は無理でしょう。論文の科学的正確さは本質的にお金の影響とかは受けない, という意味で自律的。まあ分野によってはそれが満たされていなかったり、事件として不正は起こるけれど、「本質的」の形容が指すのはそれが「末節」であるということ。前述の一般的見解をまとめ上げる機能は不足しているが、それはシステム内部の自律性ではなくて社会とのインタフェースの問題。社会が学問に「役に立つ」ことを求めるのをやめられないので、後者を専門家→専門家集団と読み替えると、無理です。社会に支配されない部分を作るという意味合いでいえば、国から大学へ流れるお金は減っていて、自分で資金を稼ぐように要請されているので、そのやりかたにはいろいろ問題はあるけど進んでいます。「できるだけ排除する」というのは求められていません。ちなみに、読み替えないと、仮説検証における確証バイアスをなくすシステムを社会全体で構築しようとかそういう話ですか?たぶん違うよね。
放射能おばけその(1)「どんなに少ない放射線でも人体に影響がある」 →私見では,「少ない量」という表現が定量的でないので,この言明だけでは真偽について何も言えないと思います。
上の「できるだけ排除する」という日本語が理解できるのに、「どんなに少ない放射線」を理解しないのはどういうことなのでしょう。わかりやすく言えば、0.00000000000000000000000000001 シーベルト/hでも影響しますって意味ですよね。lim 使って数式で書かないと科学的じゃないんでしょうか。
別に全部否定しなくても(3)(4)とかは微妙なのはその通りだけど、閾値は社会へのインタフェースである国際放射線防護委員会で示されてるよね。
低線量について基準がブレる理由も書かれてる。何か専門的機関からこのレベルの話で矛盾する基準が出されてたりするんだろうか?まあ、根拠法令として1ミリシーベルトの話書いてるからツイ主もここがブレているとは思ってないだろうね。
福島原発事故にともなう静岡県周辺の放射能汚染の詳細地図化とその意義 in 日本災害情報学会
東京の件とかこういうハザードマップが共有されるべきってことでしょ。うん、それはそう思うけど、「現時点でもなお少なからぬ地域が当該上限値を大きく上回ることはご存じでしょうか。」の根拠を示さないと水掛け論だよね。どっから持ってきたその「大きく上回る」話。
すなわち初期被曝の実態,現在の汚染状況,これらを前提とした身体への影響等の諸点を,可能な限り定量的に明らかにすることから始めなければならないのではないでしょうか。
「可能な限り」ならやってるやん?そんなこと本格的にやってたらコスト的にも時間的にも非現実的だから、もう少し社会レイヤーで防災のあり方を考えるとかそういう話があって、それが元の「私が言いたいのは、現実がこれほど混迷していて、また科学が唯一の解答を与える存在ではない以上、社会で関係する人たちが集まって知恵を絞り、科学者の助けを借りながら議論をして、幅広い合意をつくるという喫緊の必要があるということだ。」って発言の趣旨ですよね。なんか退行している気がする。
なお,私見では,医師をはじめとしたわが国の専門家集団の多くには,現時点において,このような作業を行うための自律性が欠如していると考えます。
「専門家」という大くくりで「科学者」も語るから話がややこしいんですね、ここまで科学もしくは学問の話だと思ってた。医師ってつまり研究医じゃなくて臨床医のことを指してるんだったら、建築家とかも含めての学識を期待される専門職についての問題やね。まあ、そういう意味での問題提起は重要。全員加盟制医師組織による専門職自律の確立 -国民に信頼される医療の実現のために-は興味深かったが、例えば、工学知識を使った企業がコンプライアンス守ったうえで利益に振り回されるの当たり前やろ?医学研究と医師も同一視したらあかん。もちろん、工学と工場よりは密接やけれど、学術会議の報告書もあくまで医療産業の担い手としての医師の問題が中心。医学会との関係としては個別専門医学会の認定による専門医制度が機能していないとか問題が指摘されてるけど、まずは全員加盟制医師組織ができれば専門医制度が実質的に質保証として働くと主張しているので、むしろ学会の自律性は認めているのでは。決して医学に問題ないとは言わないし、知識の公開について特に日本の医学界には問題大アリだと思っているが、学識を期待される専門職の学識保証の問題は放射能おばけの問題とはかなり距離があるので問題として混同するのはややこしくしているだけな気がする。
なるほど、この問題意識で自律って言ってたのね。
総括:
- 「放射能おばけ」って科学的根拠を伴った言葉ではない
- そりゃそうや。
- でも、放射能の持つ性質が根拠ない恐怖を煽りやすいことに着目して、精神的なケアや社会的コミュニケーションを考えるのは必要だという問題意識の産物なんやと思ってし、その問題意識は意味あると思うけど。
- そういう意味で元記事 放射能恐怖という民主政治の毒 (1)放射線と政治(小野昌弘) - 個人 - Yahoo!ニュース は読む意義があると思う。読みやすいし。
- 専門家はもっと専門家集団として自律し、社会とのインタフェースなどを築くべき
- そりゃそうや。
- 放射線の問題について日本災害情報学会が市民の要求に直接的に答えるような研究成果を持ち寄っているように、学際的領域というのはその目的性の狭さと強さから、そういう役割を担いやすい。もっと一般的に、学会やサイエンスコミュニケータによる専門家と社会とのインタフェースはしっかりしたほうがいいけどね。
- 医学知識を社会で活かす専門職は医師とか薬剤師、法学知識は弁護士とか行政書士とか、建築については建築家、それぞれ資格があるけど「資格を一回とる」以外のまとまりが希薄なので問題が起こってる。そういう専門職の質の担保や情報発信は改善が必要だね。
- その問題意識を放射能汚染に適用すると、生活安全の専門家として行政の人たちになるのかなぁ。企業内だと安全管理者、衛生管理者とかがその部分も担当すべきってことになるだろうけれど。行政の人がそれを担うのは非現実的なので、前述の学際領域的な部分と行政が組むのが現実解やろね。
- …批判のコアは次の一文で済むのでは?
- 問題ではないです
- 読んでて価値があった部分
- 3.11について、原子力損害賠償法に基づき,東京電力は無過失で損害の賠償責任を負うはずなのにそうなっていない。
- …これも調べてみたら揉めてんじゃねぇか → 原発「法の不備」見直し 原賠法改正へ関係省庁が攻防:日本経済新聞 法の専門職が自律していれば防げた話なの?
- 専門職の質保証の議論が行われているということをリファレンス付きで知れたこと 全員加盟制医師組織による専門職自律の確立 -国民に信頼される医療の実現のために-
- 3.11について、原子力損害賠償法に基づき,東京電力は無過失で損害の賠償責任を負うはずなのにそうなっていない。
- Twitter上の議論は議論になっていないことが多いので、まともに読もうとするのは骨が折れる。分野外の話ならば同じ時間を本読むのに費やしたほうが良いと、学びました。
- 問題は、上に一文にまとめなおした主張ではなくて、元の文章に不備がある、ということがメインの主張だったことかも。主張や文章の不備を指摘している場合、その指摘が元の主張動機に寄り添った revise である場合じゃないと、ただの口論の可能性が高く、読むに値しない可能性が高くなるかも。