Drafts

@cm3 の草稿置場 / 少々Wikiっぽく使っているので中身は適宜追記修正されます。

A Report on the Banality of KEISATSU-ness

弟が交通事故に遭い、一旦物損事故で出した調書を人身事故に切り替えるという作業に同席した。

元から明らかな人身事故を物損で扱ったことの警察の動機にも興味を持ったが、その1回目の場には居合わせなかったため、その点は推測するしかない。一方で、明らかに動機になりうる「その方が調書作成や現場検証などの手続きが非常に簡便」という点が強力な説得力を持っており、まあ、反証でもなされない限り、そうだと思っておこう。

弟はタクシーで、私は自転車で署に赴き、私が署に着いたときには弟は受付を済ませて座っていた。

すぐに担当の署員が現れたのだが、私が同行しようとすると「友達ですか」と尋ねられ、「いえ、兄です」と答えると、「お兄さんはここで待ってていただけますか」と言われたので、その意図を量っている間に「年齢は?」と弟に問い、成人していること(21歳)を確認すると、連れて行ってしまった。

その時の相手の仕草や世の中での事情聴取の同席拒否事例を思い起こし、警察は面倒が増える可能性を意識的に嫌って、もしくはそれが慣習化されて同席をやんわりと拒否したと考えるのが尤も理に適うと考え、3分後くらいに窓口の人に申し出て改めて同席をお願いし、奥の方にある取調室へと連れていかれた。

着席すると、明らかに不愉快な顔で「何故同席されるのですか」と説明を求められたので、「事情を把握しておきたいと思ったからです」とだけ答え(上の逡巡において教職員の生徒に対する同席のケースが保護者的だけではなく関係者としての事情把握の意味合いでもあることを思い起こし、最低限の理由がそれだと思ったので最も簡潔に答えた)、それでも不服そうだったが、弟が私の同席を望むことを伝えてくれたため、承服された。

あとは、基本特に口を出すでもなく、聞いていただけだ。切り替えの動機が、今後の揉め事に備えて事実関係をちゃんと正しておきたいという弟の意思によるものだったため、「信号の件は?」とか、思い出させるワードを口にはしたが、基本黙って聞き、警察の聴取の仕方、聞き取った内容の翻訳の仕方を観察していた。

弟もしっかりしたもので、ちゃんと分かりやすく話している。

そして一通り話し終えた。私が案内されたときに「もう終わると思いますよ」と言われたので、大抵は15分くらいで話を聞いて書くものなんだろう。そこで、弟は「事故の経緯についてすでに物損の時に話しているが、この書き換えで物損の時の書類は破棄されるのか」と警官に問うた。警官の答えは、NO。もちろん、書類破棄はせず情報は引き継がれる。今日話したような事故の内容も書かれており、引き継がれるという。 そこで、どんな情報が引き継がれるかと問うと非常に曖昧に答えた。つまり、手元にその書類があるにも関わらず、事情聴取時の写真が引き継がれます以上のことを口にしなかったのだ。

弟はそれで引き下がりかけたが、そこで私は引っかかった。その書類を見せるように言うと、見せられないという。その書類は弟の調書であるはずなのに、加害者の調書と混同した発言をし、捜査上見せられないというので、そこの問題の切り分けをし、「加害者側の調書が見せられないのは当然だ、しかし自身について作成された調書を確認できないというのか」と問うた。回答はなんとYES。これはおそらくダウトなのだが、警察に関する規律の条文を暗記しているわけでもないので、そこで口論を続けてもしょうがない。突破口を探す。

ここで初めの論点が問題になる。物損の取り調べは非常に簡潔なため、調書もほとんど詳細が書かれていないはずである。それを以って、今日わざわざ出向いて話した事故の詳細経緯が書かれているというのは俄かに信じがたいし、弟は前に話したのと異なると言っているので、書かれていようが無いわけだ。一方、警官は「繊維」という漢字さえ書けず、しれっと弟に学生証の提示を求めた。今までの調書作成の仕方を見ていても、調書内容をでっちあげて諳んじるフリをすることはできそうにもない。

私「見せなくていいですから、その調書にちゃんと書かれているか確認してください。」

警「何をですか」

私「今彼が話した事故の経緯です。」

警「どんな経緯ですか。」

私「それはそこに書いてあるんでしょう?」

警「書いていません。」

私「先ほど書いているとおっしゃいましたよね?」

警「それは簡単なことは書いていますがね、写真とか。」

私「では、先ほど彼が話した内容は書かれていないのですね?」

警「そこまで詳しくは。それは今から書くんですよ。」

私「はい、ではそのようにお願いします。」

その後、さらに詳しく事故の状況を聞かれ、合計60分に及ぶ調書作成となった。いざ書こうとしてみると書けないのだ。途中僕を案内した警官がなんでそんなに長引いているのかと心配そうに見に来たが、話をちょっと聞くと特に揉めているわけでもないので安心して去っていた。

途中、「歩けはします」という弟の発言を「大丈夫です」に置き換えようとしたり、誘導尋問めいた言葉がぽんぽん出てきたし、読み上げの時にも「もっとスピードを緩めていれば事故を避けれたかもしれない」の「かも」を強調して発音したり、なんかあざとい感じがした。もっと突っ込めば突っ込めたのかもしれないが、私は会議が控えていたので、弟が満足すればそれで良いと思った。

私は十万近い金銭の貸し借りの揉め事の仲裁に入ったこともあるが、それも被害者側が満足すれば良いということで、全額取り返せるところを半額で諦めた。基本、こういうのは局所的には、法的な正当性を十全に行使することよりも、被害者の満足が第一義だと思っている。マクロには、被害者が法的な正当性を十全に行使できる環境の整備が必要とされるだろうが。


話がそれた。問題は表題の通り。かなり主観的に書いた上の文章からは、「警察ってひどいよね」と主張したいように読めるかもしれないがそうではない。最後に警官自身が同席者の排除についてどう認識しているかを探るために質問した。

私「はじめ、私の同席を拒みましたけれど、それは何かマニュアルに基づくものでしょうか、取り調べに関わる慣習のようなものでしょうか、法的なものに基づかないのは分かっていますが。」

警「取り調べですから。」

私「まあ、分かります、取り調べには余計な人を加えないものだということですね。」

警「そうです。彼が成人でしたし。未成年だと、保護者の同席などはよくあるのですが。」

私「じゃあ、やっぱり慣習的なものだと」

警「はい」

ちょっと僕も誘導尋問しているのだが、一つ目の回答「取り調べですから」が表しているように慣習としてそうしている感がある。あと、去るときに、普段より時間がかかったと洩らしていたが、やはり第三者が居るだけで取り調べが長時間化するというのは、経験則としてあるのだろう。

別に警官として彼が特別に怠惰だったり能力が低かったりするわけではないと思う。僕を案内した警官の発言を踏まえても、大抵は警官の持っているフレームの中での調書作成を経て15分くらいで終わるものなんだろう。

特にお役所仕事というのは、クリエイティビティが求められるわけでもなく、失敗を避け、(適度な)効率化をよしとするのでマニュアル化されるということはよく言われる。中央官庁や大企業のような頭でっかちが多い職場ではマニュアル化、警察や学校のような現場主義のところではマニュアル無き慣習化が進むのは必然的だ。

だから、「『歩けはします』という弟の発言を『大丈夫です』に置き換えよう」とするのは悪意ではないだろう。調書は自由作文ではない。その後の判断に使えるように定型的な文書で定型的な内容を書く必要がある。途中、轢逃げ的要素を伝えたところ、非常に困惑された。これは轢逃げ要素があって判定を必要とする可能性がある場合、轢逃げに相当するか、相当しないかを判別するのに十分な証拠を事情聴取と現場検証で集めなければならない。そこで、こちらは轢逃げとして立件してもらう意思は全くない、むしろ、しないで欲しい、と伝えると安心された。

当事者が揉め事を無駄に大きくするのをあちらも恐れている。正当な権利なのだから行使して揉め事を大きくしても良いのだが、感情的なものを原因として必要以上に大きくすることは被害者、加害者、警察、裁判所、全方位にコストが降りかかるだけで誰も得しない。少し引いて見ると、この問題を誘導尋問や同席者の排除といったノウハウで避けるのは倫理的に許されないことであるかもしれないが、じゃあ誰がどうやってこれを避けるのかという問題が残る。いわゆるダブルコンティンジェンシー的状況ではあるので、まずは警察がカウンセラー的な聴取をすればよいし、それはドラマにみられるようにたまに実践されているだろう。主人公が被疑者や被害者に寄り添って取り調べて真実に行きつき、威圧的な対立者を出し抜くという構図はよくある。

タイトルは A Report on the Banality of Evil の捩りで、僕は彼女のような読み応えがあってレポートとしても正確な文章など書けないけれども、構図は似ているなぁと思った。これもまた、多くの取り調べの記録が得られれば真っ当な分析が可能だろうが、そもそもデータ的に最も入手が難しい部類だと思われる。