研究資料の撮影というのは文系理系問わず各分野で必要になることがある。化石の 3D イメージのように高度なものはプロジェクトとして進められる(例: GB3D Type Fossils)が、図書館に行って歴史文書のコピーを取るくらいならば各研究者が行うことが多いだろう。また、南方熊楠の日記の分析のようにプロジェクトで進められていても、撮影は写真家の方に依頼した、みたいなアドホックな解決をしている場合は多々ある。
歴史的資料を撮影するためのコピースタンド、秋葉原のよくわからないショップに売ってる(多分フィギュア撮影用の)卓上カメラスタンドが非常にコスパが良いという真理に到達してしまった……。 pic.twitter.com/1ARZboKaDM
— 河村賢 (@ken_kawamura) 2015, 12月 7
これも研究者個人によるアドホックな解決の例で、こういうノウハウが共有されると良いなと思う。スタンドの影が映りこむ、カメラとの角度が完全に平行に保てないなどの問題点があるので、データを共有できたとしてもアーカイブとして扱うにはちょっと品質が気になるはずだが、日々進展する技術の中でその時々でコスパ的に取りうる最善のデータを保存するというのが大事だと思う。長期保存を見越していたはずのマイクロフィルムでも酢こんぶ事件とかあった。結局完璧なんて志向しないのが大事、だからこそ原本の保存も大事。
著作権の問題のないものについては、データも十分な品質で低コストで研究者間で共有できればいいなと思うし、図書館がそれをサポートできればいいなと思う。
コピーやスキャンは?
まあ、資料へのダメージの問題だろうと思ったが一応ちゃんとした資料を引いておく。
IFLA 図書館資料の予防的保存対策の原則 第4章 伝統的な図書館資料 from 日本図書館協会 資料保存委員会 IFLA原則
コピーは資料保存において深刻な問題を引き起こしている。原稿台がフラットベッドタイプの複写機や乱暴な取り扱いが,図書や文書の構造に大きな被害をあたえる。複写機は事務用のものではなく,製本された図書向けにデザインされたものを使用すべきである。高価ではあるが,図書を上向きのまま複写できるタイプが理想である。コピーは,十分に訓練を受けた職員がそれぞれの資料がコピーに適しているかどうか判断した上で行うことが望ましい。
2003年の文書なのでデジカメとかに関しては言及されていない。デジカメに言及したものとしては、2010年 OCLC による報告書があって、カレントアウェアネスで紹介されている。
E1027 - OCLC,閲覧室でのデジタルカメラの使用に関する報告書を発表 | カレントアウェアネス・ポータル
閲覧室でのデジタルカメラの使用がもたらす利点について報告書は,「コピー機よりも資料への負担が少ない」「資料保存機関の利用を促進する」「時間・手間・費用を節約し,より多くの資料の複写物を入手できるといった点で,研究者の満足度を高める」「スタッフの作業量を軽減する」「貸出にかかる時間を節約し,盗難の可能性を軽減する」「資料保存機関が著作権侵害に関する法的責任を問われるリスクを軽減する」などを挙げている。
各大学図書館でデジカメでの撮影をどう扱っているかなどをまとめたブログ記事もみつけた→大学図書館で持参したデジカメで資料を撮影する件について: egamiday 3
そういう手法の情報は共有されてないの?
大判資料(古地図等)の分割撮影向け簡易撮影台の作成みたいな少し大掛かりなものは資料があったりするが、もっと裾野の広いはずの上のような例はあまりないのではないか。
その場での処理と、後処理
上の手法で撮影された画像を試しに後処理してみたのだが、paint.net で、Perspectiveプラグインを用いれば、撮影時の傾きを補正することは簡単にできた(ただし手動)。影については、トーンカーブのS字を調整すれば影を取り除きつつ文字をハッキリさせるような処理がある程度できたが、限界がある。一方で、ターボスキャンやCamScannerのように複数回撮影したり撮影時にアノテーションをインタラクティブにするような工夫で綺麗に読み取る方法もあるが、それに頼ると、撮影機材と処理が密結合する。そこを疎結合にしたままで十分な品質を担保するためには、処理にある程度のインテリジェンスが必要で、これはOCRの世界で研究が進んでいるはずだが、デジタルアーカイブ、オープンサイエンスの観点から適切にプラットフォームやノウハウを整える必要があると思う。任意のデジカメで安価な撮影台で複数枚撮影したものをほおりこめば、画像の編集やOCR、Exif情報取り出しなど適切に処理して、書誌情報と結びつけて管理できるツールがあれば最高かな。