大学のインフラとしてインターネット環境は今や非常に重要な役割を果たしている。運用における収入源は
- 利用者による負担金
- 大学全体のお金
の2つで成り立っている。割合の違いこそあれ、多くの大学でその実態は変わらないだろう。利用者による負担金というのは取りやすいとこから取るしかなく、学外者の利便や教育上の利便を考えると、利用者による負担金も受益者負担とは言えない状況だ。
財政状況に問題が生じ負担が増えるとなると、割が悪いと思っている部局は積極的に受益者負担を叫ぶのは当然の流れだ。しかし、受益者負担の徹底が理想的なわけではない。政治思想的にリバタリアニズムと呼ばれる立場に立つと受益者負担の徹底を叫ぶことになるが、一つの政治思想にすぎずもちろん批判もある。
こういったときに、その問題点や解決策を提示できる知識というのは用意できるのだろうか。
- 政策科学の観点から、受益者負担にかかわる政策の実例と理論を整理する
- 政治哲学の論争から、批判者の批判の立場や再批判の内容を整理する
- 実験心理学の成果から、平等感に関わる条件を整理する
- 同様の事例を他大学などから集める
なかなかそんなことはできないので、素人じみた議論のまま進むことにモヤモヤする。結局はたくさん知識を持っている管理者側の意向が色濃く反映され、受益者負担を叫んだ部局に少々配慮がなされるという程度になるだろう。それは、リバタリアニズム的な「vs 権力」な観点から言っているのではなく、そこに伴われがちな陰謀論めいた疑いに基づいているわけでもなく、結果を引き受けなければならない自分たち自身が、洗練されない結果を引き受けることを危惧している。
管理者側は説明会を開いて情報や知識を提供し、「どんな些細なことでも基礎的なことでもいいから質問や議論を」と発言を促しても、受益者負担を叫ぶ声が出るまでが精一杯で、私も考えがまとまらない。
受益者負担のデメリット(もしくは他の方策の動機)としては、
- 徹底するために受益者を計測したり徴収したりするためのコストがかかる
- 外来者や学生を受益者とすることの多い大学のネットワーク環境にはそぐわない
- コストというのは消費を方向付けるための仕組みとなる。教育におけるインターネット環境のさらなる活用など理想的な方向性が合意できるのならば、単に受益者負担を徹底させるのではなく、方向付けるためのデザインを組み込むことが望ましい
受益者負担のメリットとしては、
- 各構成員の平等感
- システム外部からの金銭の調達が減るor不要になるのでサステナブルになり、運用が頑健になる
あたりだろうか。平等感に至っては、受益者負担の徹底が逆に不平等を生むという議論もあってその方向では絶対に議論に収集がつかないの分かっているので、規範的にとか哲学的にではなくて実験心理学のような行動科学の成果から何か知見が欲しいなと思うところ(Rawls の MaxMin 原理 と Harsanyi の 平均功利主義の背景にある効用関数の形の分布なんかは実験経済学とか実験心理学とかによって比較可能だよね…という立場は Harsanyi 寄りなのだけれど、少なくとも the separateness of persons を語る上でも分布を相手取れない理論的枠組みって弱いよねと思う)。平等感やサステナビリティのように必要となる機能こそ洗い出せれば、それらも受益者負担の徹底という方策に頼る必然性は無いので、代替となる方策はいくらでもあると思う。一番強く思うのは、理想的な方向性の合意というのが初めに無いと、デザインできないんじゃないかなぁと。こういう制度設計に関して、工学的観点からの知識蓄積が不十分だと思う。
参考?:
- 一般設計学
- 分配的正義とその批判:ロールズ VS ノージック | UTokyo OCW
- 東京セッション報告:サステナビリティ分科会 - 京論壇2015ブログ 全然直接関係ないんだけど、サステナビリティと受益者負担の双方のはてなキーワードに言及しているブログがあるなぁと思ったら京論壇の環境問題に関するブログだった。結局、人間環境学の教科書作ろうという話は果たされないままだけれど、ここらへんの知識は教科書に必須だよねぇ。
- 世の中(⊃大学)は発展途上 - Drafts 良い教育のためのネットインフラ大事